子どもと気づき①/学力を伸ばす美術鑑賞
『なぜ、これがアートなの?』(アメリア・アレナス)という本があります。1990年代にアメリカで始まった対話型美術鑑賞法の実践例を紹介した本です。
この対話型美術鑑賞法は、さらに研究が重ねられVTS(Visual Thinking Strategies)という方法にまとめられました。もとは、ニューヨークMoMA(ニューヨーク近代美術館)の教育部門で、来館者への教育サービス向上のために研究がはじめられたものです。その中心人物となるフィリップ・ヤノウィンが、MoMAを離れ、子どもの教育向けにそれを研究することに専念しまてまとめたのがVTSです。
その実践的なガイドが『学力をのばす美術鑑賞』(フィリップ・ヤノウィン)です。
ヤノウィンの問題意識の根底にあるのは、全米共通学力基準(批判的に思考し、問題を解決し、論理を明確にし、他人の意見を傾聴し、説得力をもって話し、そして書く能力)をどうやって、子どもたちに重い負担をかけずに実現するかという問題意識でした。(p10)
子どもたちは、学校で学ばなければならないことが多すぎて、学習意欲を失いがちになる傾向にあります。その状況に対して、ヤノウィンは対話型の美術鑑賞法がその起爆剤になるかもしれないというひらめきを得ました。
鑑賞の仕方はとても簡単な原則に従います。進行役(先生やファシリテーター役の人)は次の質問を子どもたちに繰り返し行うことが原則です。
<日本語>
①この作品の中で、どんな出来事が起きているでしょうか?
②作品のどこからそう思いましたか?
③もっと発見はありますか?
<英語>
①What is going on in this picture?
②What do you see that makes you say that?
③What more can you find?
これを上手に使いこなすことで、子どもたちが自分たちで問題を解決できるという自信が持てるようにサポートします。
本によると、月に1回1時間程度(作品数は3点程度)、年に10回のクラスで子どもたちは自分たちで能動的に学習する学習態度を身につけられます。
日本に紹介されて30年が経ち、美術館や美術教育の関係者の中では大きな広がりがあるようですが、学校教育の現場ではあまり知られていないようです(2024年に市の教育委員会の方は聞いたことがないと言っていました)。
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